同人音楽オススメ3選

僕自身もメンバーを務めている同人音楽同好会による企画同人音楽オススメ3選ということでM3-2011秋以降の作品から3つ選ばせていただきました。
音楽の色味がそれぞれ異なる3作だと思っています。それでは早速。


鏡星/銀霊譜(TKY-0021,2011/10/30)

収録時間1曲40分。Sakuraと李乃による女性ツインヴォーカルと翡翠によるファルセットによるコーラスワークが美しいゆったりと流れるようなシンフォニック作。
神楽笛を使用しての雅楽アイヌ音楽を交えた荘厳な雰囲気と共に伸び伸びとした前半部の音調は実にたおやかで心が凪ぐ。シンフォニックでありながらどこか懐かしい和のメロディが心を捉えて離さない。媚を売ったような中途半端な「和」の曲調ではなく、雅楽をベースにしていることもあり、落ち着いて聞ける。前半部はコーラスと落ち着いた雰囲気が支配するが、一転、中盤を過ぎてからの激しいキーボードによる展開はまさに様式美。思わずニヤリとせざるを得ない。決して音が重厚ではないながらもシンフォニックロックともジャズロックにも振れる幅を持ち、自然な展開を見せる翡翠氏の力量にはただただ感嘆せざるを得まい。アイヌの民族衣装と思しき衣装を身に纏った二人の少女のジャケットも楽曲の世界観に花を添えている。
気付いたら40分が経過している。この収録時間にドキッとした方は是非。心を奪われる音世界がそこに。


Paradise Eve/騎士エメラルド(PEVE-004,2011/12/31)

『少女サファイア』『少女ルビー』に続く「聖少女三部作」最終作は意外にも「少女」ではなく「騎士」。運命を課せられた騎士である少女は楽園を目指す。久遠ゆんによる伸びやかなヴォーカル、天使語による多重コーラスも安定している。甲斐ユウによるメロディメイク、マスタリングもParadise Eveの4作中最も光っているのではないだろうか。何より全体的な安定感が増しており聴きやすい。「騎士」という守備にも重きを置いたイメージは音楽にも反映されているかもしれないが、さらにシンフォニックになり、ドラマティックな迫真の曲調は鬼気迫るものがある。なお、三部作完結記念の小冊子にはこれまでの天使語歌詞の対訳が掲載されているが、ジャンヌ・ダルクをモデルとしているようにみえる今作の少女の悲劇性は際立っているかもしれない。
三部作と言いながらも1stアルバムの『楽園のイヴ』は「水晶」をモチーフとしていることもあり、実質的には四部作とも捉えられるので、三部作だけでなく1stから改めて通して聴くのもいいだろう。


Mamyukka/僕のあの娘の終末日記(MKCD-07,2011/12/31)

紛うことなき最強冬休みソング。
諸人こぞりて、ひいらぎかざろう、Winter Wonderland、Jingle Bells、We Wish You a Merry Christmas、歓喜の歌、お正月…惜しげもなく年末ソングを使った充実度の高さ。もうこれを聴くのが年末の恒例行事となること請け合いでしょう。
メドレーは全く違和感なくつながっていてあまりにも楽し過ぎて一瞬で7分が流れてしまうし、A4の紙だけで学期末と終末(年末)とその物語をCDケースにしてしまっているその装丁には度胆を抜かれるし、幼女にもセクシーな女性にもその声を変える自在なヴォーカルには心を奪われるのでもうなんだか大変な1曲。
そしてやっぱりなんと言っても幼女ラップ最強。ロリコンの貴方も、ロリコンじゃないと必死に否定する貴方も聴くといいと思うよ!

2011年私的ベスト30!(国内編)

2年振りに30選ということで。急速に邦楽を聴くようになってきたので国内のアーティストをピックアップ。
2011年のリリースに限りませんが、2011年リリース作を多く聴いたように思います。


1. TRIPLE H/HHH(2011)
 かわいいコーラスで男くさいARBをカバーさせるという発想に痺れる。
2. 大滝詠一/A LONG VACATION[30th Edition](1981/2011)
 リマスターを経て格段に音がクリアになっていて素晴らしい。
3. スカート/ストーリー(2011)
 これが10年代のポップ。日常に溶け込みながらも尖ってる。
4. テニスコーツ/ときのうた(2011)
 シンプルな音。どこかあたたかくて暗い海に漂っているような感じ。
5. ももいろクローバー/バトル アンド ロマンス(2011)
 一癖も二癖もある曲が満載。作曲陣の安定感。ただのアイドルだと思ってはいけない。
6. ムーンライダーズ/カメラ=万年筆(1980/2011)
 ニューウェーヴ期ライダーズの抜群の突き抜け感。キレてる。
7. 豊崎愛生/love your life, love my life(2011)
 豪華な作曲陣。極上のポップス。そんじょそこらの声優のアルバムではないです。
8. スカート/エス・オー・エス(2010)
 生温かい春の暖かさを思わせる極上ショートポップ13連発。
9. 坂本慎太郎/幻とのつきあい方(2011)
 軽やかなのに強い印象を残す。確固たるナンセンス。
10.相対性理論/正しい相対性理論(2011)
 「相対性理論」という捉えどころのないスタイルの提示。いつでも流動的で予想不可能。
11.さよならポニーテール/魔法のメロディ(2011)
 体にすっと入り込む何の変哲もない音楽。どこかにありそうなのに魅力的。
12.阿部芙蓉美/町(2011)
 珠玉のミニベスト。スローバラードと声の親和性の高さが際立つ。
13.特撮/5年後の世界(2011)
 よりキャッチーによりヘヴィによりメロディアスに。帰ってきた特撮はソリッド。
14.Otomo Yoshihide's New Jazz Orchestra/Live vol.1(2007)
 夜にそっと忍び込むジャズの誘惑。エロティックでスリリング。
15.Sakanoshita norimasa/Meditation(2011)
 エレキギター1本で奏でられる静かな拡がりを持ったインプロヴィゼーション。 
16.デッドボールP/デPフェス!(2011)
 人間が歌えたのかという衝撃とテンションの高さ。ライヴの圧倒的な臨場感。
17.Cornelius/Fantasma(1997/2010)
 目まぐるしく煌びやかに。エレクトロでファンキーな遊園地にいるかのよう。
18.細野晴臣/HoSoNoVa(2011)
 アコースティックでゆったりと。素敵なラグライムミュージック。
19.細野晴臣/Hosono House(1973)
 40年が経とうとしているのに古臭さなどない、あたたかみのあるロック。
20.劇場版 マクロスF サヨナラノツバサ netabare album the end of "triangle"(2011)
 ランカ曲が際立つ楽曲が多い。菅野よう子のメロディメイカーとしてのセンスに脱帽。
21.ゲルニカ/改造への躍動(1982/2002)
22.ZABADAK/ひと(2011)
23.近田春夫&ハルヲフォン/電撃的東京(1976)
24.岡林信康/岡林信康ろっくコンサート(1979)
25.鈴木茂/BAND WAGON(1975)
26.井上陽水/氷の世界(1973)
27.SPANK HAPPY/Vendome, La Sick Kaiseki(2003)
28.BiS/Brand-new idol Society(2011)
29.岡村みどり/ブルースでなく(Mint-Lee)(1994/2011)
30.昆虫キッズ/text(2010)

「今日は一日プログレ三昧、再び」トラックリスト

ほぼ完全版。コメント等いただければ修正していきます。
第2回のプログレ三昧でしたが、10時間は短かった。今回はやはりDave Sinclairと豪華メンバーによるスペシャルバンドのライヴに尽きますね。もはや溜息しか出ない素晴らしさ。第3回があるならば企画も含めてまた期待したいと思います。

第1部

OP: King Crimson/The Great Deceiver(Starless and Bible Black,UK,1974)

OP2: Emerson, Lake & Parlmer/Fanfare for the Common Man(Works vol.1,UK,1977)

1.Pink Floyd/Atom Heart Mother(Atom Heart Mother,UK,1970)


◆ゲスト岩本晃市郎登場
・Locanda Delle Fate/A Volte un Istante di Quiete(Force le Lucciole Non Si Amano Più,Italy,1977)

2.Emerson, Lake & Parlmer/Jerusalem(Brain Salad Surgery,UK,1973)


◆ラジオ教養講座 プログレッシヴロックの傾向と発展(岩本晃市郎)
3.Yes/Five Per Cent for Nothing(Fragile,UK,1972)

4.Pink Floyd/Time(Dark Side of the Moon,UK,1973)

5.Rick Wakeman/Catherine of Aragon(Six Wives of Henry VIII,UK,1973)

6.Led Zeppelin/The Song Remains the Same(Houses of the Holy,UK,1973)

7.Wings/Love in Song(Venus and Mars,UK,1975)

8.Elton John/Funeral for a Friend(Goodbye Yellow Brick Road,UK,1973)


★John Wettonコメント
King Crimson/Book of Saturday(Larks' Tongues in Aspic,UK,1973)

9.Asia/Daylight(Don't Cry,UK,1983)


10.Camel/Rhayader(The Snow Goose,UK,1975)

11.The Moody Blues/Question(Question of Balance,UK,1970)

12.New Trolls/Concerto Grosso per 1 New Trolls; 1° Tempo: Allegro(Concerto Grosso per 1 New Trolls,Italy,1971)

13.Arti e Mestieri/Gravità 9,81(Tilt,Italy,1974)

14.Renaissance/Nothern Lights(A Song for All Seasons,UK,1978)


◆「私とプログレ」1.小林明子
・Yes/The Revealing Science of God - Dance of the Dawn(Tales from Topographic Oceans,UK,1973)


プログレ諸国漫遊、再び
15.Sheshet/Debka(Sheshet,Israel,1977)

16.Hinn Íslenski Þursaflokkur/Aeri Tobbi(Þursabit,Iceland,1979)

17.Discus/System Manipulation(Tot Licht,Indonesia,2003)


18.Soft Machine/Fanfare ~ All White(Six,UK,1972)


★Kansasメンバーコメント
・Kansas/Song for America(Song for America,US,1975)

19.Kansas/Paradox(Point of Know Return,US,1977)

20.Focus/Sylvia(Focus III,Holland,1972)


◆ゲスト宮武和広(ミスターシリウス)登場
21.Mr.Sirius/Step into Easter(Barren Dream,Japan,1987)

22.KENSO/月の位相-I(夢の丘,Japan,1991)


◆俺たちが裁く プログレ裁判
・Stern Combo Meissen/Overture(Weisses Gold,Germany,1978)

23.坂本冬美/夜桜お七(夜桜お七,Japan,1994)

24.柊(高垣彩陽)/キグルミ惑星(はなまるなベストアルバム childhood memories,Japan,2010)

25.Perfume/ポリリズム(GAME,Japan,2008)

26.Kokoo/タルカス変奏曲(super-nova,Japan,2000)

27.植松伸夫/ビッグブリッヂの死闘(Final Fantasy V original sound version,Japan,2004)


28.Mandalaband/Om Mani Padme Hum(Mandalaband,UK,1975)


★PFMメンバーコメント
・Premiata Fornelia Marconi/Generale(Per un Amico,Italy,1972)

29.P.F.M./River of Life(Cook,Italy,1974/2010)

30.Atoll/Le Voleur D'extase(L'Araignee-Mal,France,1975)

31.Robert Wyatt/Sea Song(Rock Bottom,UK,1974)

32.National Health/Tenemos Roads(National Health,UK,1978)


◆「私とプログレ」2.宮台真司
33.Faust/The Sad Skinhead(Faust IV,German,1973)


◆関西プログレ秘話
34.Sirius/Crystal Voyage[Live ver.](Crystal Voyage,Japan,1980)

35.Novela/The Boyhood - The Cliff(魅惑劇,Japan,1980)

36.Mr.Sirius/Sons of Sand(The Secret Treasures,Japan,)

37.ページェント/エピローグ(螺鈿幻想,Japan,1986)

38.Black Page/Paranoia(Open the Next Page,Japan,1986)

39.Mr.Sirius/ナイルの虹(Dirge,Japan,1990)


★Peter Hammillコメント
・Peter Hammill/Vision(Fool's Mate,UK,1971)

40.Van Der Graaf Generator/Pilgrims(Still Life,UK,1976)

41.Finch/Register Magister(Glory for the Inner Force,Holland,1975)


◆「私とプログレ」3.貴志祐介
Genesis/The Lamb Lies Down on Broadway(Lamb Lies Down on Broadway,UK,1974)

・Emerson, Lake & Parlmer/Karn Evil 9: 1st Impression, Part 1(Brain Salad Surgery,UK,1973)

Dream Theater/Under a Glass Moon(Images and Words,US,1992)

・Hatfield & the North/Halfway Between Heaven and Earth(The Rotters' Club,UK,1975)

42.Genesis/Watcher of the Skies(Foxtrot,UK,1972)


43.Rush/YYZ(Rush in Rio,Canada,2002)

44.Slapp Happy/Casablanca Moon(Acnalbasac Noom,German,1973)

45.Hostsonaten/Season's Overture(Summereve,Italy,2011)

第2部

◆ゲストDave Sinclair登場
46.Dave Sinclair/Wanderlust(Moon Over Man,UK,1993)

47.Dave Sinclair/Island(Stream,UK,2011)


◆Dave Sinclair's Special Bandライヴ
I.Dave Sinclair's Special Band/If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You(If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You,UK,1970)

II.Dave Sinclair's Special Band/Man is the Child*1(Stream,UK,2011)

III.Dave Sinclair's Special Band/Distant Star(Stream,UK,2011)

IV.Dave Sinclair's Special Band/Nine Feet Underground(In the Land of Grey and Pink,UK,1971)

V.Dave Sinclair's Special Band/O Caroline(Matching Mole,UK,1972)


48.Maxophone/Ce un Paese Al Mondo(Maxophone,Italy,1975)


◆Dave Sinclair's Special Bandメンバー登場


★Eddie Jobsonコメント
・U.K./Caesar's Palace Blues(Danger Money,UK,1979)

49.U.K./In the Dead of Night(U.K.,UK,1978)


50.Moon Safari/A Kid Called Panic(Lover's End,Sweden,2010)

51.Mike Oldfield/To France(Discovery,UK,1984)

52.Gino Vannelli/A Pauper in Paradise: 2nd Movements(A Pauper in Paradise,Canada,1977)

53.Gino Vannelli/A Pauper in Paradise: 3rd Movements(A Pauper in Paradise,Canada,1977)

54.Tyondai Braxton/Uffe's Woodshop(Central Market,US,2009)

55.McDonald and Giles/Birdman(McDonald and Giles,UK,1971)


◆「私とプログレ」4.スターレス高嶋
スターレス高嶋/Starless(こわれるくらい抱きしめたい,Japan,1993)
King Crimson/Red(Red,UK,1974)

56.King Crimson/Starless(Red,UK,1974)


57.Yes/You and I(Close to the Edge,UK,1972)

ED: Pink Floyd/Brain Damege ~ Eclipse(Dark Side of the Moon,UK,1973)

*1:Caravan/Mad Dabsong(Cunning Stunts,UK,1975)のリメイク

さよならポニーテール/モミュの木の向こう側(2011)

「さりげなくかつ鮮やかに 魔法をきみはかけるんだ」 (Tr.3 世界と魔法と彼の気まぐれ)

みぃな:基本は、みんなで試行錯誤しながら作ってるんで著名な人はひとりもいないし、今はほんとに自主制作みたいな感じですね。曲をマイスペースにUPするまでは、こんなに沢山の人が聴いてくれるなんて全然思ってなかったし。
ゆりたん:うん、他のメンバーも含めて、みんな個々で音楽やってるけど著名な人ではないですよ。設定がイラストなのは、その方が曲のコンセプトや世界観が伝わりやすいっていうだけで。
クロネコ:あと、チームっていうかサークルみたいな感じだから、普通のアーティストとかバンドの方法論にとらわれる必要もないのかなっていうのもあって。音楽を伝える為の方法論自体が新しい、っていうのを目指してるからニャ〜。

*1


この手の情報の比較的少ないミュージシャンに言えることかもしれないけれど、情報が少ないことにより生まれる「謎」を明らかにすることは必ずしも必要とは言えない。「謎」が明らかになったところで音に純粋な変化はもたらされない。「謎」を前にしたらそれを知りたい好奇心を持つのが人間かもしれないけれど、わからないことがあるというのはそれだけ多くの可能性があるということでもある。音楽や音源を目の前にして、音が聴こえてきたならばまずはそれで充分なのかもしれない。だからといって、どんな人たちが、どんな女の子たちがやっているのだろうかと思わないこともないわけではない。正直言うと気になるが、情報を明かさないことで纏える空気がこのミュージシャンを形作っているともいえるだろう。だったら知らないままでもいい。想像の世界で聴けばいい。


どこかにありそうなメロディ、曲調、ヴォーカル。
演奏が巧いわけでも、手数が多いわけでも、ヴォーカルがめちゃくちゃ魅力的なんてこともない。
どこかで聴いたことがありそうなのに聴いたことがないようで、嫌味がないし、気取りも気負いも感じられない。
目新しさがないと言ってもいいくらいなのに、聴くといつのまにか深みに嵌まっている。
なのに深みに嵌まったことにすら気づかずにいる。
そんな音楽。"空気"のような、息を吸うように自然に体に入り込む音楽。
全然すごくない。それがすごい。そんな音楽。
気付いたときには魔法にかかっている。そのときにはもう遅い。


Rating: ★★★★☆


*1:謎に包まれた女の子3人組「さよならポニーテール」について -インタビュー:CINRA.NET
http://www.cinra.net/interview/2010/11/26/000000.php

5月の5枚。

いい音楽ばかり溢れている。

今月の5+6枚

Linda Perhacs/Parallegrams(US,1970)
 USアシッドフォーク唯一作。その声は美しく儚い。そして優しく沁みる。
 金延幸子はこの辺の流れを引いているのかなあ。


大瀧詠一/大瀧詠一(Japan,1972)
 ポップマエストロ大瀧詠一の原点。はっぴいえんどの世界がまだちらちらと見えている。
 しかし80年代まで連綿と続くナイアガラサウンド、ナイアガラメロディの空気が垣間見える。


Return to Forever/Romantic Warrior(US,1976)
 スペーシーなジャズを超えて、もはやジャズロック。メロディアスなBrand Xを髣髴とさせる。
 羽のように軽やかな空気を纏いながら、エンターテインメントかつスリリング。


ムーンライダーズ/カメラ=万年筆[スペシャル・エディション](Japan,1980/2011)
 ニューウェイヴの時代においても異彩を放っていたのではないか。度肝を抜かれる。
 ボーナスのリミックス集は現代のJ-rock/popシーンを支えるアーティストで溢れている。


Brad Mehldau Trio/Art of the Trio, Vol.1(US,1997)
 しっとりとしていて寡黙な印象のピアノながら、その音はBill Evansのようで雄弁な音。
 こんなに繊細なピアノジャズに出会えていなかったとは。


SPANK HAPPY/Vendome, La Sick KAISEKI(Japan,2003)
 クラブポップで夜のしじまによく似合う。何より岩沢瞳の声がキュート。
 相対性理論あたりのサウンドSPANK HAPPYあたりから来ている気もさせられる。


テニスコーツ/とてもあいましょう(Japan,2007)
 どこか民族音楽調のこともあればアンビエントにも七変化。
 実験的で生温かい水の中をたゆたっているような感覚を覚える。


Otomo Yoshihide's New Jazz Orchestra/LIVE Vol.1 series circuit(Japan,2007)
 静謐と興奮の入り雑じるライヴ作。そこにしかない音の重なり、連なりが聴く者の肌を震わせる。 
 オーケストラという形態をとりながら決して拡がりすぎず、そしてコンパクトになりすぎない。


Alamaailman Vasarat/Songs from Vasaraasia(Finland,2011)
 彼らのエッセンスが詰まった来日記念ベスト。管弦楽メタルとでも形容すべきか。
 メタルにもビッグバンドジャズにも変わる目まぐるしさ、不気味さが何よりの魅力。


ZABADAK/ひと(Japan,2011)
 力強い吉良知彦のヴォーカルが前面に。どっしりしたロックでポップな楽曲群。
 M10「水の行方」の壮大でシンフォニックなサウンドにはただただ圧倒されるばかり。


相対性理論/正しい相対性理論(Japan,2011)
 このユニットは不定形だと、何の気なしにアピールせんばかりの"ミュータント"アルバム。
 新発表3曲とはいえ、波紋を投げかけるだけのエネルギーがここにはある。


次点の5枚

Korpiklaani/Spirit of the Forest(Finland,2004)
 森メタル。酒メタル。邦題はもはやネタながら、しっかり楽しめる。
Beardfish/Mammoth(Sweden,2011)
 Pain of Salvationの前座をつとめたボーナスのライヴ映像がスリリング。


今月の5+2曲

ムーンライダーズ/彼女について知っている二、三の事柄(カメラ=万年筆,1980/2011)
Varttina/Vihma(Vihma,1998)
SPANK HAPPY/Vendome, La Sick KAISEKI(same,2003)
テニスコーツ/ドンナドンナ(とてもあいましょう,2007)
Alamaailman Vasarat/Kyyhylly(Songs from Vasaraasia,2011)
ミルキィホームズ/正解はひとつ!じゃない!!(2010)
ZABADAK/水の行方(ひと,2011)
相対性理論/Q&Q(正しい相対性理論,2011)
幼蚕文庫/冴えないが故に悶える(21世紀新TV時代歌唱,2011)


目の前で見られたVarttinaとAlamaailman Vasaratは衝撃的だった。テニスコーツ/ドンナドンナはもの悲しげなメロディがどこか懐かしい。相対性理論/Q&Qの歌詞はどこまでもあざとい。幼蚕文庫の新曲はどうにもならない行き場のないもやもや感をパンク調にパッケージした爽やかなポップロックに仕上がっている。

4月の5枚。

メモしたまま放ってありました…

今月の5枚

Vashti Bunyan/Lookaftering(UK,2005)
 35年の時を経ての2ndなのにまったく時の流れを感じさせない。牧歌的でフォーキー。
 1stの時のシンプルなサウンドと優しいヴォーカルは健在。素晴らしい。


Kino/Picture(UK,2005)
 モダンプログレの記念碑的作品の一つ。音の仕上がりが軽すぎるのが気になるけれど…。
 キャッチーなキラキラサウンドで軽やかに駆け回る。


Pain of Salvation/Road Salt One(Sweden,2010)
 目まぐるしく変化する展開、ヘヴィなリフに情動的なヴォーカル。
 かっこよさとキャッチーさと曲展開と。打ちのめされずにはいられない。


The King of Limbs(UK,2011)
 ロック色は更に薄まって限りなくダブステップ色が濃い。
 それをRadioheadとして繋ぎとめているのがやはりThom Yorkeの声。
 OK Computerの音からは想像できなかったところに彼らの音がある気がする。


細野晴臣/HoSoNoVa(Japan,2011)
 1stソロ作"Hosono House"以来の原点回帰作。38年のときを経て廻り廻って帰ってきた。
 アコースティックでゆったり流れるラグタイムミュージック。


テニスコーツ/ときのうた(Japan,2011)
 夏の夕暮れに縁側で聴いていたい。アコギ、ピアニカ、キーボード。
 至ってシンプルな2人の織り成すサウンドがどうしてここまで心を揺り動かすのだろう。


次点の5枚

sphere/Spring is here(Japan,2011)
 シングルからの曲が半分以上でアルバムオリジナルが少ないのが残念。
YAMP COLT/yes(Japan,2011)

今月の5曲

Pain of Salvation/Linoreum(Road Salt One,2010)
YUKI/ひみつ(same,2011)
水木一郎と特撮/かってに改造してもいいぜ(same,2011)
大槻ケンヂと絶望少女達/メビウス荒野〜絶望伝説エピソードI(same,2011)
テニスコーツ/砂漠(ときのうた,2011)

相対性理論 presents『立式III』

2011年5月21日(土) 19:20〜20:45
中野サンプラザ

やくしまるえつこ(Vo)
永井聖一(Gt)
真部脩一(Ba)
西浦謙助(Dr)
勝井祐二(Violin)
江藤直子(Key)
zAk(PA)



曲をミックスしたイントロダクションでライヴが始まる。20分遅れのスタート。幕が閉まったまま青いライトが回り出す。やがて幕が上がって演奏陣の力強いプレイ。そしてそろりそろりとやくしまるえつこの登場。黒いスカートに白いストッキング、高いヒールを履いて時折足をクロスさせる。歌い方もフェティシズムを覚えさせる歌唱だとは思うけれど、それにも増してファッションや仕草にもフェティシズムを感じさせる、そんな立居振舞い。



曲の合間にステージ上で水を飲む動作でさえもかわいいと思わせるミュージシャンもそうそういないと思います。直立したままほとんど動かない、MCもほとんどないというのは前々から聞いていたので特に驚くことはなかったし、11月の大友良英のライヴの時もそういう感じだったのでなんとなくは知っていた。ほとんど何もせずほとんど何も動かずただ歌うやくしまるえつこの立つ円形ステージの電飾が過剰なまでにキラキラと眩しいのが逆に滑稽で、そのどこかちぐはぐしたミスマッチ感と、昔の遊園地みたいなショーとしての演出を電飾に担わせていたのかもしれない。



永井聖一がたまに前に出てくるくらいで演奏陣も基本的にはそのままの立ち位置。エレキバイオリンが組み込まれていたのが意外で、でもしっくりきていてよかった。勝井祐二氏の名前は初めて聴いたのだけれどキャリアを重ねている方のようで今後チェックできれば。ともかく演奏陣は情動的でパワフルでスタジオ盤を聴くのとはまた全然違う勢いがあった。永井聖一がアンコールのムーンライト銀河の最後にギターを投げ捨てて戻っていったのが印象的でした。
最後の最後で永井聖一が去り、真部脩一が去り、西浦謙助が去り。静かに残る3人。余韻を残しながら幕が下りた。最後に「ムーンライト銀河」だったのはよかった。



相対性理論名義の曲だけでなく、やくしまるえつこソロ名義の曲もあったのは意外で、でも1st『シフォン主義』からの曲がなかったのは少し残念だった。正しい相対性理論を受けてのライヴってのもあるのかもしれないし、確かに1stの楽曲を演奏するようなそういう雰囲気のライヴではなかったかもしれない。




ただ、正直なところを言うとこのライヴの感想としては「消化不良」。期待していたところと実際のライヴの雰囲気のギャップがあった。それはお前の期待なんだからライヴがその通りになるわけがないだろと言われればそれまでなんだけど、檻の中で演奏しているバンドを眺めるような不思議な距離感があって、観客との一体感であるとか緊張感というよりも、なんとも言えない気まずさみたいなものを感じてしまってどことなく落ち着かないままライヴが終わってしまった。
誰も立たない、誰もノらない。歓声もほとんどなく、あるのはただただ拍手。ポップなのに、ロックでもあるのに、クラシックのコンサートみたいで、かつ観客全体にもどんな感じだか様子見っていう雰囲気のようなものは確かにあった。(それにしてもアンコールの拍手が異様だった…メンバーが出てきて演奏を始めているのにまだ拍手してる人が一定量いてこれには流石に戸惑った…)
相対性理論のライヴ」というよりも「相対性理論の鑑賞会」という雰囲気だったと思います。「バンドとの距離感の解釈を各自でしていってね」というのが相対性理論の姿勢なのかもしれないけれど、あのホールの大きさと観客の多さでその姿勢を求めるにはまだ早かったのかもとは感じざるを得なかった。早いとかではなくてホールの規模との相性の問題なのかもしれないけれど。


このライヴを手放しで喜ぶ人もいるだろう。別にそれで構わないと思います。
不満を持っている人もいるだろう。別にそれで構わないと思います。
それは楽しみ方や期待がそれぞれあるってこと。ただ俺にとっては物足りなさだけが残った。餌を与えられて喜ぶ豚でいるならば、その喜びと共に、何を食べているのか、本当に美味しい餌なのかを知覚できる豚でありたい。確かにライヴ自体はよかったし、一曲一曲のクオリティは決して低いものではなかったです。でもとても手放しで喜べるような雰囲気ではなかったように思うし、あれで満足してしまうならば観客もそこで止まってしまう気もする。もっと騒げとかもっと一体感が、とかいうよりも、ライヴだからこその付加価値がほしかった。観客はもっと求めてもいいのではないのだろうか。そう思わせられたライヴだった。



熱気云々を抜きにして「ライヴ」が一体感のようなものを求めているものを指す言葉ならば、昨日のライヴは「コンサート」と呼ぶべきだろうし、また「ショー」とも呼ぶべきものだったとは思う。ショーマンシップを感じ取れるかといわれればなかなか迷うところ。でも、明確に意図をもってあの場の空気を演出しているのならば、やはりそれもショーマンシップというものなのだとは思っている。ただそのショーマンシップは観客全員がついていけるものではないのかもしれない。自分もついていけているかといわれればわからない。むしろついていけていない気がした。見えない服が見える人には見えるし、見えない人には見えない。そんな違いなのかもしれない。そういう意味で大きなホールでの隔たりのようなものを感じざるを得なかったのだと思う。
「ショー」として「コンサート」として観るべき対象である、やくしまるえつこ相対性理論という演者に、逆に観客が観られているのではないか、そんな気持ちさえ抱く短い不思議な夜なのでありました。

・セットリスト
SE.QMCMAS
01.Q/P
02.ミス・パラレルワールド
03.ヴィーナスとジーザス
MC「覚悟はいい? 不思議体験、はじまる」
04.ふしぎデカルト
05.人工衛星
06.Q&Q
07.四角革命
MC「目が合ったら、撃ちます」
08.シンデレラ
09.(恋は)百年戦争
10.ほうき星(未発表)
MC「ブロードウェイ vs とげぬき地蔵
11.COSMOS vs ALIEN
12.(1+1)
MC「またね」
EN.ムーンライト銀河
MC「おやすみ」