スカート / Live at Shibuya WWW "月光密造の夜" (2012)


澤部渡主宰のポップバンド スカートによる初のライヴ盤。
耳を確かに撫でるヴォーカルが聴こえる。ゾクゾクする。息づかいが、歓声が、嬌声が、聴こえる。ドキドキする。

何もかもを圧倒する若さと勢いがそこにはある。ピッチは時に外れている。歌詞だって間違えている。でもそれは取るに足らない瑣末なこと。作品全体が勢いと臨場感に包まれている。勢いというものは恐ろしい。優しい顔をして全てをなぎ倒すように進んでいくのだ。

佐久間裕太のパワフルなドラムが確かなリズムを刻み、静かな顔をした清水瑶志郎のベースが跳ね、表情を変えない佐藤優介のキーボードは雨音のように踊る。そしてその中心に澤部渡の存在がある。彼の指が作り出すギターサウンドは優しく、甘やかに尖る。心の奥のやわらかい部分をそっと、そして強くつかまれたら最後。戻っては来られない。聴くものを惹きつけてやまないそのヴォーカルは映像作品でないにもかかわらず、その表情さえ伝えてくる。声を張り上げればその興奮をそのまま感じさせ、ライヴの高まりと演奏の高まりは強烈な印象を残す。

いつだって青年の紡ぎだすポップソングはいつも気前が良く、サービス精神には惜しみがなくて、気持ちがいい。「ストーリー」から始まるだけで既に心をとらわれて、ライブの定番「おばけのピアノ」も広い会場に響き渡る。イベントと同名の「月光密造の夜」は夏夜に小気味よくスイングしているし、しっとりと歌い上げられる「魔女」に、会場の雰囲気を引き連れて突き進む「スウィッチ」。最後にメンバー紹介をするところも、なぜか学歴順に紹介してしまうあたり、ハイテンションに身を任せている感じがしていて、もうライヴの興奮そのままなのだ。

スカートの勢いをそのままに、暑い夏の熱いパフォーマンスがパッケージされている。老若男女問わず必携の極上ポップライヴがここにある。


Rating: ★★★★★